9月4日

ナウい一日


8:00にアラームを鳴らしたものの、どうも眠い…。30分後、ようやっとベッドから起き上がる。どうも疲れが見え始めているようだ。こんなところで疲れてどうする?! 「♪どうする?、○○○○〜」というCMがあるが、本当に私が「どうする〜?」だ。

どうも、ホテルの高い朝食を食べる気になれず、9:20にホテルを出発し、ソウル中央郵便局を目指した。昨夜のうちに書いておいた15枚の絵葉書が、官製葉書よりも大きいため、「葉書」として郵送できるかどうか確認するためである。「料金、合ってます?」と聞くと、窓口のお姉さん、「合ってます」と一言。韓国の郵便局員の愛想は悪い。

そこから、乙支路入口駅まで歩き、地下鉄改札前のコリアン・ファストフード店に入る。うどんやトッポッキ昨年の写真をご覧下さい)なども扱っているが、私の目を引くのは「キムパプ」という文字である。色々な種類のキムパプがある中で、私は「ソゴギキムパプ」を注文した。「ソゴギ」とは牛肉のこと。赤い古代米に牛ひき肉、かにかまや卵焼きなどを豪快に巻いたキムパプにスープがついて1500ウォン(約150円)。安くてうまいのが一番!

地下鉄2号線に乗って新村(シンチョン)へ出る。ここには、有名な延世(ヨンセ)大学校があり、昨年も訪れた弘益文庫(ホンイクムンゴ)がある。そこで『名探偵コナン』『犬夜叉』『花より男子(だんご)』『クレヨンしんちゃん』の韓国語版を購入した。大の大人がマンガなんて…と、店員さんやお客さんから思われたに相違ない。しかし、それもこれも、みんな研究のため。旅の恥はかき捨てなのだ! 会計をしている最中、ふと語学書のコーナーにある1冊の本が目に入った。日本語学習者のための本なのだが、その本には

ナウい日本語

という、決してナウくない、時代はずれの豪快なタイトルがついていた。ご丁寧にも、「“ナウい” というのは…」という解説文が裏表紙にあり、「さぁ、あなたもこの本で、ナウい日本語を身に付けましょう!」というような文で結んであった。買って帰れば良かったのだが、荷物が重くなるのと、思ったよりも値がはる本だったので、諦めることにした。次に行った時には、必ず手に入れるぞ!…と、もうひとりの私が心で叫んでいた。

私も、ナウい韓国語を身に付けたいっ!

再び地下鉄に乗り込み、忠武路の「韓国の家」(コリアハウス)に向かった。日本で予約を入れておいたランチビュッフェを食すためである。しかし、予約は12:00。地下鉄に乗り込んだのは10:35。そこで、地下鉄を乗り継ぎ、大回りをしながら、時間をつぶして忠武路に向かった。地下鉄が途中、地上に出て、漢江(ハンガン)を臨む。漢江の水位と同じ高さのところに幹線道路が走っている。ちょっとした大雨でも、このあたりの道路は冠水するな…と、少々心配になる。

11:20、コリアハウスに到着する。ここは、韓国の伝統的な家屋を再現した建物が集まり、その中で韓国伝統の食事を楽しんだり、民族舞踊を楽しめる所である。まず、お土産を購入し、コリアハウス敷地内をグルッと回った後、食堂の受付で私の予約を確認した。「Yoshinobu Hattori」の名が、そこにあった。

韓国の家 入口(正面)韓国の家 記念碑韓国の家 メインホール入口韓国の家 復元された伝統建築の一部

12:00ちょうど、チマチョゴリを着た係の女性に「服部様、こちらへ」と促され、食堂に入った。客は誰もいない。要するに、私が本日最初の客ということになる。テーブルに案内され、「お好きなものをどうぞ!」という声を合図に、食べ放題がスタート! 最初の客であるということは、料理は手付かず状態。キレイに並べられた料理を崩していく様は、快感でもあり、もったいないようでもあった。多数の韓国料理が並んだテーブル…。どれもこれも美味しそう! 顔がニヤけているのが自分でもわかる。とりあえず、皿に乗るだけ料理を取り、テーブルに戻って「いただきます!」。その頃、次々にお客さんがテーブルについていた。その中の1組、日本人の夫婦と娘のグループは、昨夕、ロッテ前で私が道を教えた、あの家族であった。声をかけようと思ったのだが、私をいぶかしげにみる目、目、目…。黙って食事することにした。

料理にお粥を食べ放題食べて、さらにデザートの米菓子なども食し、会計を済ませてホテルに一旦戻った。そして、今日も懲りずに高島屋の紙袋と仕事用のバッグで、目指すは韓日文化交流会議事務局。しかし、14:00の約束までには、まだ1時間ある。ホテルから韓日文化交流会議事務局までは、15分もあれば着いてしまう距離。そこで、VASAカスタマーセンターでサイトとメールのチェックをし、明洞駅から地下鉄4号線で惠化(フェファ)駅に出た。昨年も事務局を訪ねているので場所はわかっているのだが、同敷地内で引っ越しをしたという。そこで、駅を出てすぐ、携帯電話で事務局の李惠美(イ・ヘミ)さんに連絡を入れた。すると、「では、マロニエ公園にベンチがたくさんあるので、どこかに座っていてください。私が迎えに行きますから」と李さん。公園に向かうと急に手洗いが恋しくなり、駆け込む。手を洗って外に出ると、李さんが私を探しているのが見えた。急いでハンカチをズボンのポケットにしまい、李さんのほうへ歩いていった。
韓日文化交流会議にて(左;李惠美さん、右;林秀妍さん)
事務局に通され、日本から持参したお土産のお菓子(高島屋の袋入り!)と、これから日本でブレイクすると(私が勝手に)信じているライトンのぬいぐるみ(日本生まれのキャラクター)を李さんに渡し、インタビューを開始した。李さんは『ストレス・スパイラル』を持ってきて、「面白かったですよ!」と拙著を誉めてくれた。韓国で流行っているキャラクターについて伺おうとしたら、「ちょっと待ってください。詳しい人がいますから…」ということで、林秀妍(イム・スヨン)さんを紹介された。SMAPファンの林さんは、私が「日本では “ビミョー” って言葉が流行っています」というと、「そうですね、スマスマでクサナギツヨシがよく『世にも微妙な物語』で言ってますね」とのお答え。日本で放映されたものが、1週間遅れで “ある” ルートを通じてビデオで出回るという。ちょっと顔を赤らめながら、SMAPのことを語る林さん、いい味出していたなぁ。

2時間に亘ってインタビューをお二人に取らせていただいたのだが、月刊『韓国文化』を持ってくるのを忘れたことに気付き、明日もう一度、惠化に来ることを告げ、事務局をあとにした。

17:00に趙一雨くんから携帯電話に連絡が入るということになってるので、どこか静かな場所に…と移動先を考えたが、ちょっと疲れてきたのでホテルに戻り、仮眠をとった。電話がくるまで40分…。しかし、いつまで経っても電話がかかってこない。そこで17:30に私が彼の携帯電話に連絡を入れると、「今、仁川にいて、今日はソウルへは行けそうにない。申し訳ないけれど、明日また連絡するから…」ということで、明日の22:00に連絡を入れることにした。

時間が空いてしまったので、鐘閣へ行き、教保文庫のCDショップで『千と千尋の神隠し』のCDを購入した。後に、このサウンドトラック盤にまで日本大衆文化開放の中断の重い事実がのしかかっていることを知る。

光化門(クァンファムン)駅から地下鉄5号線に乗り、西大門(ソデモン)へ。そこから徒歩でNANTA劇場を目指した。今夜はノンバーバル・パフォーマンスのNANTAを楽しもうと、チケットぴあで予約したチケットをバッグにしたため、ウキウキしている私…。劇場の場所は…というと、私の持っている地図には「西大門駅を降りて、京郷新聞社方面へ」としか書いていない。京郷新聞社のビルは見つかったのだが、NANTA劇場がない。そこで露店商のオバサンに「NANTA劇場はどこですか?」と聞くと、「あっちだよ!」と教えてくれたほうに進む。しかし、劇場らしきものはみつからない。雑貨屋さんに入り、道を尋ねると、今度は私が歩いてきたほうだと言われる。しかし、見当たらない。駐車場の整理をしているお兄さんに尋ねると、京郷新聞社ビルを指さし、日本語で「1階にあります!」と。何と、劇場入口前を、私は何度も行ったり来たりしていただけだったのである。

ナンタ劇場 舞台入口にて苦心した末、劇場に到着したのが19:30。開場時間ちょうどであった。チケットを購入する必要はないので、売店で日本語版パンフレットを買って時間をつぶし、客席へ向かった。会場スタッフにチケットを見せ、座席の案内をしてもらう。VIP席(いわゆるS席)Bブロック92番…ブロックは全部で3つ。Bブロックというのはつまり真ん中のブロック。そして、92番という席は、前から2列目であった。ものすごく良い席である。時間があったので一旦外に出て、スタッフに「今日はどのチームが出演しますか?」と聞いてみた。本日はレッドチーム。NANTAの詳しい内容はこちらを見てもらうとして、ここでは一言「ものすごく素晴らしいパフォーマンスだった!」という私の偽らざる感想だけを述べておこう。

終演後、出演者のサイン会に出て、握手までしてもらい(その時、韓国語版のパンフレットを購入した)、売店によって(またか?!)TシャツとCDを購入し、夜道を西大門駅へ。ホテルに戻ってすぐ、趙くんに電話する。どうも電話での会話に自信を失いかけている私は、ホテルのフロントで通訳を頼んだ。彼に電話し、「ちょっと待って!」と言ってホテルの職員に代わってもらった。どうも、彼も私に会いたいということで、どうしても明日、時間を作ってほしいということだった。ある程度の内容を通訳してもらった後、私が電話に出て、待ち合わせ時間を決めた。結局、明日の21:30頃にホテルのロビーで待ち合わせることにした。

部屋に戻って、まだ夕食をとっていないことに気が付いた。ベルボーイに「まだ、営業している店はある?」と聞くと、地図を取り出して、「ここ、ここ、ここ…」と○をつけてくれた。その○を頼りに、明洞を歩く。○のついた店の1つは参鶏湯(サムゲタン)をはじめとする鶏料理の店だった。雰囲気も良さそうだったので、入ることにした。「いらっしゃいませ。おひとりですか? こちらへ」と席に案内された。疲れていた私は、メニューを見るのも面倒になり、店員の若い男性に「おすすめは?」と聞いてみた。すると、「参鶏湯、どうです?」ということで、栄養もあり、疲労回復にも効果的な参鶏湯を頼んだ。ひな鳥の中に米や高麗人参、なつめなどを詰めて煮込んだ参鶏湯は、疲れた私の体に染み込んでいった。BGMの曲を歌っている女性の声がきれいだったので、店員の男性をつかまえて「この歌を歌っている歌手は誰?」と聞いてみた。彼はわからないようで、別の店員に聞いてくるという。結果、パク・ギヨンという歌手だということが分かった。店員さんが私に「日本人?」と聞いてきた。「そうだよ!」と答えると、韓国語をどこで勉強したのか聞いてきた。私が「NHKという放送局を知ってるかい?」と聞くと、知っているという。NHKテレビのハングル講座を見て勉強したと言うと、「へぇ〜、テレビ…」と珍しいものでも見るような目をしていた。日本のどこから来たのかと聞くので、「横浜って知ってる?」と言うと、「よく知ってる。東京の近くだね」という答え。彼は名古屋と東京に行ったことがあるという。この珍しい日本人に興味を持ったようで、「日本で参鶏湯を食べたことはあるか?」と質問してきた。私が「韓国では食べたことがあるけれど、日本では高級料理だから…」というと、「そんなに高いのかい? いくらするんだい?」とどんどん質問してくる。そこで、「日本円で5000円」というと、「5000円? 5万ウォンじゃないか?! 何で、そんなに高いんだ?」と目を丸くした。ちなみに、この店の参鶏湯は8000ウォン。つまり800円程度なのである。

閉店時間になり、客が次々に店を出ていく中、「あっ、ゆっくりしてていいよ!」と、私に店員さんが声をかけてくる。厚意に甘え、ゆっくり参鶏湯を味わっていると、「いつも人参は半分入れるんだけれど、君の分だけ1本入れたよ!」と、嬉しいことを言ってくれた。

最後にご飯を頼んだので、結局1万ウォン支払ったが、それでも1000円程度。それに、店員さんからもちゃっかりインタビューをとったので、安く済んだのかもしれない。

部屋に戻る前、ベルボーイに「参鶏湯の店に入ったよ!」と教えると、「美味しかった? そう、それはよかった!」と、自分の仕事に満足していた様子。色々な準備をしていたら、日付はとっくに変わっていた。3:00にベッドに入り、意識不明…?!