初日 4月5日(木)



いよいよ渡韓当日。成田空港行きのリムジンバスの予約も入れてあるし…と、準備万端だったのだが…。朝起きて落ち着いて考えてみると、リムジンバスの予約した時間があまりにも早いことに気づいてしまった。予約したバス(8:50発)に乗り込むと、成田空港には10:00過ぎに着いてしまう。飛行機は14:50テイクオフ。ひとりで5時間近くをつぶすのは困難…と考えた私は、電話を入れて、一本遅いバスに振り替えてもらうことにした。
YCAT
9:00前、YCAT(横浜シティエアターミナル)に到着。発券カウンターで「電話で予約の変更をした服部ですが…」と言うと、「あぁ、UA(ユナイテッド航空)でお出かけの服部様ですね。はい。9:10発のバスに予約を変更してあります」と、手続きが順調に行われたことにホッとしたものの、「では服部様、服部様のご利用になられるバスは、当所を9:10発となります」と案内され、「ゲッ、たった20分違いかよぉ…!」と、ちゃんと時間の確認をしておかなかったことを後悔した。

私の乗りこんだバスは、ほとんど渋滞に巻き込まれることもなく、成田空港を目指していた。10:27、空港手前の検問所で、いつものように「パスポートコントロール」が行われた。その5分後、私は成田空港第1ターミナルに降り立った。

私の場合、個人旅行ではあるものの、ディスカウント・チケットが団体旅行扱いであるため、集合時間に指定された窓口に行き、クーポンと手続き済みのボーディングパスを受け取らなければならない。集合時間は12:20。ずっとミーティングポイントのベンチに座り、大画面のテレビに映し出される空港案内を見たり、韓国に着いてからの手順を考えたりして、ひたすら時間の流れるのを待った。

12:20、ボーディングパスを受け取り、マイレージの手続きが済んでいるかどうかを確認し、機内預け用手荷物の手続きを済ませ、マクドナルドに入る。客の半数以上は外国人。店員も日本語と英語で対応している。しかし、ここのマクドナルドは、ハンバーガーとチーズバーガーの平日半額サービスを行っていないということで、マックリブとファンタを注文した。私をよく知る人ならば、「これでお腹いっぱいになるの?」と疑問を抱くだろうが、ここでたくさん食べてしまうと、機内食が食べられなくなる…というのが私の計算だった!?

搭乗時間ギリギリまで遊んでしまうと、出国審査が混んでしまいそうだったので、早め早めに出国審査を済ませ、搭乗ゲート前へ移動した。ここで、メーリングリストにメールを送っておく。

成田空港ユナイテッド航空成田空港フライトボード私の乗るユナイテッド航空827便ソウル(仁川)行きは、ほぼ定刻通りにタキシングを始め、14:55に無事テイクオフした。

ジャンボジェット(B747−400)の機内、私のとなりに座っている若い女性が、ずっと私のほうを見つめていた。その視線の意味は?! 何か妙なことを言われたりしないだろうか?…などと思っていたのだが、ふと、私が窓側の席に座っていることと、その女性が窓の外の風景を眺めているだけだったことに気付き、ちょっと恥ずかしくなる。

ソウルまでは、2時間ちょっとのフライト。当然、機内サービスも簡略化される。免税品販売も、ほとんど陸の上をフライとすることになるため、認められない。機内食も、箱入りのサンドウィッチ(はさまれていたのはコールドビーフ。手間はかかっていないが、私には大ヒット!)が出され、飲み物のサービスを受けただけだった。

17:10、開港したての仁川(インチョン)国際空港にランディング(着陸)。しかし、アメリカ人の機長のアナウンスが入る。「私どもの入ろうとしているゲートを、日本航空のDC10機が占領しておりますので、ゲートが開放されるまで、しばらくここで待機します」とのことだったが、17:30にはドアオープンされ、機外に出ることになった。

仁川国際空港到着しかし、私は出来たてほやほやの空港を(出来るだけたくさん)撮影しておこうと思ったため、カメラをバッグから取り出して格好のアングルを探してはパシャパシャ(?)撮影していたため、気がついたら周りに人影はなく、私は孤独な存在となってしまった。おまけに初めて利用する空港…。しかし、案内板を頼りに入国審査場に到着した。

しかし、私の前に並んでいた人(アメリカから来た夫婦? UA827はホノルル発成田経由の便だったから、多分アメリカ人だろう)の審査に時間がかかり、別のゲートに並ぼうとしたところ、それまで「外国人」と表示されていたはずのゲートが「韓国人」の表仁川国際空港荷物受け取り示に変わってしまい、慌てて例のアメリカ人の後ろに再び並ぶハメになってしまった。

えらく時間のかかった入国審査となったが、入国は笑顔で…などと勝手な判断をした私。「アンニョンハセヨ?」(こんにちは)とにこやかにあいさつしたものの、入国審査官の女性に鼻であしらわれてしまった。私が初めて韓国に来た時(10年前)の入国審査官の男性は、にっこり笑ってくれたんだけれどなぁ…。

到着ロビーで機内預けの荷物を受け取り、空港の外に出てビックリ! 吐く息の白い仁川国際空港バス乗り場こと! 気温は9℃と表示されている。日暮れということもあるのか、とにかく寒い!! 寒い上に、どのバス停からリムジンバスに乗れば、私の目指す明洞(ミョンドン)に行けるのか、まったくわからない。そこで、バス停の表示を見てみるが、どこにも明洞方面」という表記はなかった。再び空港内に戻り、インフォメーションへ。女性係員に、「日本語で良いですか?」と聞くと、「ニホンゴ、ワカラナイ…」と言われ、英語を話してみたが…。到着早々、韓国語を使うハメになった。「ミョンドン カジ カリョヌンデ オヌ ボスエ タヌンゲ チョアヨ?」(ミョンドンへ行きたいのですが、どのバスに乗れば良いですか?)と聞くと、6番か18番のバス停へ行けとのことだった。礼を言って空港を仁川国際空港リムジンバス乗り場出ると、目の前に18と書かれたバス停があった。しかし、系統がいくつもあって、どのバスに乗れば良いのかわからない。そこで係員に聞いてみると、2番線というバスに乗れば良いとのことだった。しかし、2番線と書かれたリムジンバスは、その質問をしている私の目の前で行ってしまったばかりで、次のバスが何時に来るのかもわからない状態。そこで私は、500メートル以上(?)走って、6番のバス停を目指した。そこでまた係員にどのバスに乗れば良いのかを来てみたが、やはり2番線と書かれたバスに乗れば良いという回答を得た。10分ほど待っただろうか、2番線と書かれたバスが来た。大韓航空のリムジンバスサービスなので、車体のカラーも大韓航空と同じ。さらに、大韓航空のスチュワーデスさんたちもドヤドヤ乗り込んできて、私のバッグの上に自分たちの荷物を(何のためらいもなく)置いていってしまった!! 韓国では、乗合バスや地下鉄の中で、座っている人の膝に自分の荷物を(何も言わずに)置いていく人がいるが、持ちつ持たれつ的な精神の根強い韓国では、当たり前の光景である。

バスに乗りこんで驚いたのは、6番バス停を出発したバスは、18番バス停に停車し、そこでまたお客さんを乗せて行ったということだ。つまり、私は500メートル走ろうが走るまいが、結局は同じバスに乗ることになったのである。何となく、無駄な労力を消費したように思えたが、良い想い出だ!

リムジンバスの出発前、運転手さんが客席を見まわった。韓国では、高速道路を走るバスの着席時にはシートベルトをすることを義務付けていることを知っていたので、私はちゃんと着用していたのだが、私のとなりの、台湾からきたおばさんにはワケがわからなかったようで、そっと教えてあげた。

バスに乗ること1時間、ソウル駅前で私は下車した。そこから地下鉄4号線に乗れば、2つめの駅が明洞である。しかし、街の景観が5年前の記憶と“かなり”異なっていたため、駅前の道で迷子になってしまった。ふつうなら、道行く人に「4号線はどこですか?」と聞くところだが、「聞いたら“おのぼりさん”だと思われてしまう」という不安から、自力で4号線の乗り場を探し出すことにした。ハングルだけで書かれた表示を頼りに、何とか切符売り場に到達したのだが…、私のサイフには十分な小銭がなかった。 日本でウォンを購入した時、すべて1万ウォン紙幣で受け取ってしまい、さらにリムジンバスの料金も1万ウォンだったため、サイフには1万ウォン紙幣しかなかった。地下鉄の切符は600ウォン。しかし、韓国の地下鉄は便利だ。どの駅にも、券売機の横に有人窓口があり、そこで行き先と枚数を言うと、切符が買えるのである。「ミョンドン ハンジャンヨ」(明洞、1枚ください)と言って1万ウォンを出すと、9400ウォンのおつりと共に、切符が1枚…ということになる。

明洞駅に着き、地上に出てすぐ、私は我が目を疑った。何ともきらびやかなビルが建っているのだ! 若者のファッション・情報などの新たな拠点として名高い「ミレオレ」というビルだった。そして、次に我が耳を疑った。ビルの1階のイベントスペースで、カラオケ大会のようなものが行われていたのだが、大勢の若者がひしめき合う中でステージに上がった男の子(大学生くらい?)がマイクを握ると、聞き覚えのあるイントロが流れ出した。ここ数年のK−POP(コリアン・ポップ)の傾向を良く知らない私なのに(昔の傾向は、大変良く知っているのだが…)、何で聞きサボイホテル覚えがあるのだろう? しかし、答えは、答えはすぐに出た。彼が歌っているのは、今はなき尾崎豊の名曲「I Love You」だったのだ。しかし、韓国語…。何で韓国語? そうそう、渡韓前に朝鮮日報の日本語サイトで、ポジションというアーティストがJ−POPの曲ばかり集めてアルバムを出したという情報を得たっけ。ただし、日本語でCDを発表してはいけないので、歌詞は韓国語に直してあるということだった。それで、目の前の彼は、韓国語で「I Love You」を歌ったんだなぁ…と、すぐ納得した。と同時に、それを日本の曲と知って歌っているのかな?…という疑問も残った。
そんな喧騒を抜けて、20:00過ぎに、サボイホテルに到着した。

ふつうの紀行文ならば、ここでその日の記述が終わるところだが、私の場合はちょっと違う。ホテルにチェックインするところから、次のドラマがすぐに始まるのだ!

ホテルのフロントでサインをしていると、ベルボーイが私の荷物を持ち、「お部屋にお運びします」と、流暢な日本語で言ってきた。というより、このホテルのスタッフの大半は、日本語が流暢なのである。10年前、初めて韓国に来た時に、外国人旅行案内所でこのホテルを教えてもらってお世話になって以来、韓国に来ると、宿泊しなくとも、必ず訪ねるホテルだった。今回は久々に宿泊客としてここに来た。

エレベータに乗り込むと、いきなりベルボーイが「一人旅ですか? 寂しくなったら私に連絡してください。かわいい女の子を紹介しますよ! 今夜のこれからの予定は?」と聞いてきた。韓国のホテルで、こういう問いかけをされなかった所は、私の記憶では皆無に等しい。どこに言っても「女の子、遊びたがってますよ!」などと声をかけてくる。彼らのサイドビジネスであるのと同時に、「日本人はスケベ」という固定観念があるようだ。「私はスケベではない」と自信を持って言うことは出来ないが、そういう遊びは好まないので、「必要になったらお願いします」と言ってその場から逃れるようにしている。

久々のサボイホテルは改装が済んだばかりとのことで、部屋も廊下もピカピカだった。ドアもカードキーのになっていて、1957年創業のホテルとは思えないほどである(以前来た時は、窓が木枠でギシギシいうは、カギはガチャガチャうるさかったが、それでもこのホテルは快適だった)。

明日、いよいよ日本文化開放に関するインタビューをとらねばならないが、日本であまり情報を得ることが出来なかったため、部屋に荷物を置いてすぐ、明洞の街並みを歩いてネタ探しをすることにした。体の疲れも感じたが、そんなことを言ってはいられない状況である。あまりに無知な状態でインタビューすることの失礼さを考えると、体にムチ打ってでも、インタビューに必要な情報を明日までに得ておかなければならないのだ(ただ、明洞に着いてすぐに「I Love You」を耳にしたことで、ひとつネタを得てはいるのだが…)。

明洞は、「韓国の銀座」などと良く言われる。確かに、店の並びは銀座のようなのだが、雰囲気は銀座というより新宿に近い。若者文化を(ちょっと前まで)牽引してきた街である。通行人の8割以上が若者であるのも頷ける。その街を韓国人になりきって歩いていたが、露店のおじさんに「オニイサン、カバンガヤスイヨ! 12000ウォン、12000ウォンデケッコウヨ!」などと、日本語で話し掛けられてずっこけてしまった。明洞もかつては地図なしで歩けた私だが、あまりにも変化が激しく、なくなってしまった店、新しく出来た店など、情報の整理をしながら歩くことにした。観光客のあまり寄り付かないような道も隈なく歩き回り、一通り明日までに必要な情報を得ることが出来たが、機内食が少なすぎて、お腹がグーグー鳴っている。そこで、明洞カルビ・冷麺という店に入って、ピビン冷麺とビールを注文する。店員さんはあまり日本語が堪能ではないものの、日本語メニューもあることからも、日本で出ている韓国ガイドにも多数取り上げられているらしい。そのせいか、客の8割は日本人だった。

疲れた体にカツを入れるべく、ビールを流し込み、メチャクチャ辛いピビン冷麺で刺激を与え、お店の厚意で出されたキムチ(日本人であるのにも関わらず、なぜか私のソウルフードはキムチである)で、明日のインタビューの成功を祈念したのだった。