同行者の体調がなかなか良くならない。夜中、ちょっと寝ては起きて、額に載せた濡れタオルを替え、また少し寝て、タオルを替え…という状態を続けていたら、私まで体調が怪しくなってしまったのである。「こんなハズでは…」という思いが、頭を過ぎった。
それで、我々は昼前まで横になることにした。私のほうは体調がほぼ回復したが、同行者は…熱は下がったものの、まだ胃腸の具合が良くないらしい。しかし、今日は映画「青燕」(チョンヨン)を観に行かねば…。部屋にずっとこもるよりも、外の風に吹かれたほうが気分も紛れ、健康にも良いと判断した私は、同行者に着替えるように言い渡し、13時過ぎにホテルを出た。
今日のソウルも良い天気だった。多少寒さが気になったが、恐れおののくほどの低温ではなかった。明洞から地下鉄4号線で舎堂(サダン)に出て、2号線で三成(サムソン)へ。「何か、胃に入れとかないと倒れるよ!」と同行者に告げると、「固形物でなければ…」との返事。そこで、「だったら、ソルロンタンなら体に優しいかも…」と思い、COEXモール内でソルロンタンを食べられる店を探す。が、なかなか見つからない。実は、何度かソルロンタンの店の前を通過していたらしい。慌てると、目の前にデカデカと書かれた文字さえ見えなくなるようである。そんなこんなで、やっとソルロンタンの店で注文を出し(私は、いろいろトンカツセットなるものを注文した)、何とか昼食にありつけた。そして、複合映画館メガボックスへ。
「青燕」という映画は、植民地時代の朝鮮半島生まれの朴敬元(パク・ギョンウォン)が、東京の飛行訓練学校でパイロットとなり、日本から朝鮮半島を経由し、満州への海峡横断を試みたアジア初の民間女性飛行士として活躍したという実話に基づいている。が、朴敬元が韓国では親日派として知られ、「このような親日派の映画を今、なぜ作ったのか?」「こんな映画は観に行かないほうがいい!」「彼女が親日派かどうか、観てから決めればいい!」などと、インターネット上では激しい論争が繰り広げられたことでも知られる。さらに、映画は舞台が日本であることから、セリフのかなりの部分で日本語が使われる。「どうやら、映画制作に日本側からの “協力” もあったらい」という噂さえある。そういうことからも、この映画が「映画」としての枠を超え、民族的な問題にまで発展してしまったのである。では、映画の内容は、出来は…というと、日本人として直視できない部分も多々あったものの、「映画」としては完成度は高いと思われる。ただ、受け止め方によっては反日感情を煽るようにも受け取れるし、親日的行為を容認(美化)するようにも受け取れた。ただ、朴敬元氏のように、「祖国」「日本」「自分の夢」という三者の間で自分が揺れ動かされたら、私は一体どうしただろう?…という気持ちが大きかった。
映画観賞後、ちょっとCOEXモール内をうろついて、そして帰途に就いた。いつもの韓国珍道中には有り得ない、かなりゆったりした行動パターンである。当然、フィールドワークそのものもスローペース。大丈夫なんだろうか…?