トックマンドゥククでおめでとう!



(12月31日の続き)

今年の最初の瞬間は、おしくらまんじゅうをしていたわけだから、これ以上過酷なことが今年おとずれることはないかな…などと思うと心が晴れ晴れする。

韓国も、今日は交通機関が終電を延長しているのだが、慣れた道でもあるため、20分ほど歩いてホテルへ戻る。しかし、夜のソウルは寒い。除夜の鐘を待つ間も、聞いている間も、マフラーに帽子で寒さ対策をしていたが、気が抜けたのか、さらに寒さを感じるようになり、手袋を取り出して、完全防寒状態でホテルに戻ることにした。途中で朝鮮日報を購入。韓国の新聞は基本的に日刊のため、夜には次の日の新聞が発行されることになる。これが、今も私がしっくり来ない新聞発行事情である。

韓国語では「あけましておめでとうございます」を「セヘ ポン マニ パデュセヨ」という。「セヘ」は「新年」の意、「ポン」は音韻変化しているので原音は「ポク」で「福」のこと、「マニ」は「たくさん」の意、「パデュセヨ」は「受けてください」といったところ。直訳すると、「新年に福をたくさん受けてください」ということになる。ちなみに韓国の正月は旧正月を祝うのが習わしなのだが、1月1日も太陽暦の新年として祝う。1年に2回も「新年に福をたくさん受けてください」と言える韓国(人)を、心のどこかでうらやましく思った。

皆さんも私も、福をたくさん受けられる1年になるよう、祈念する次第。

それから本日は、韓国における日本大衆文化開放の最終段階に入る初日でである。昨日までとは規制の度合いが変わり、やっと韓国内で日本語歌唱のCD販売が許可される。朝が来たら、早速ソウルの街を観察しようと思いつつ、フトンへ…。

10:00過ぎ、起床する。初日の出なんてとっくの昔に昇っているという状態。メールチェックすると、たくさんの「あけおめメール」が…。テレビをつけると、いきなり「チャングヌン、モンマルリョ」(クレヨンしんちゃん)が! 声の具合がまったく違うので、違和感を覚えてしまう。それに、設定を変えるのにも無理がありすぎる。それでも食い入るように見入ってしまった私。すっかり時間を忘れてしまった。

気が付けば11:30。今日は一応正月なんだから、お正月料理でも…と思い、ホテルを出る時にベルボーイに聞いてみることにした。このベルボーイさんは、私の顔を見るなり、「あっ、お久しぶりです」と声をかけてきてくれた。そう、数年来の顔なじみである。彼から「韓国では、正月にはトックマンドゥククを食べます」と教えてもらった。「トック」とは「餅」のこと。ただ、日本のものとは違い、韓国の餅は丸くて細長い棒のようである。それを薄切りしたものを「マンドゥクク」に入れて食べるのだそうだ。「マンドゥ」は漢字で「饅頭」と書く。「クク」は「スープ」のこと。ちなみに、我々日本人がよく「クッパ」と呼ぶ食べ物があるが、これは正式には「ククパプ」である。「パプ」は「御飯」のこと。つまり、「スープに御飯を入れた食べ物」のことである。話を戻して、「トックマンドゥクク」というと、「餅入り饅頭スープ」となる。南大門市場にほど近い店で食したが、安くてウマイ! スープもなかなかやみつきになる味である。肉饅頭(大きなワンタン…のようなもの)が3つ入っているスープに、「これでもかっ!?」と言わんばかりにトックがわさわさ入っている。大食漢の私ではあるが、腹一杯になってしまった。トックマンドゥクク、恐るべし! ここの店員さんは、観光客を相手にすることが多いため、日本語や中国語で呼び込みをしていた。「いらっしゃいませ! 請進!(チンジン)」と、ほとんど韓国人を相手にはしていないご様子。あるお客さん相手に、それも自慢げに「日本語では、“きれて、ありがとうございます!”と言うんですよ!」と説明していたが、「お客相手にキレちゃマズイだろ?!」と心の中でツッコミを入れる私であった。おそらく、「来てくれて、ありがとうございます」と言いたかったのだろう。それでも日本語としては不自然である。が、「誰か、正しい日本語を教えてくれるだろう」ということで、あえて私は訂正せず。それに、我々日本人のほとんどは韓国語を理解できない。簡単なあいさつすら出来ない者が多い。店員さんの日本語は正しくはないけれど、立派に通じているんだから、それでいいんじゃないか…とも思う。

おいしいトックマンドゥククに満足した(うえに、サイトのネタまで仕込んでおいた)ところで、店を出る。そのままハーバードメガネへ直行。昨日注文しておいたメガネを受け取りに行った。入店すると、昨日は不在だった社長さんがいた。私を一目見るや否や「お久しぶりです。お元気でしたか?」と声をかけてきてくれた。が、これもなぜか韓国語。「新年のあいさつを日本語ではどういうか?」「韓国語をどうやって勉強した?」その他いろいろな会話を20分ほど店員さんとする。会話の5分の4は韓国語…なぜだ? この店のウリは、「日本語OK!」じゃなかったのか? 以前はずっと日本語だったのに…。とりあえず、あっという間の20分だった。「ト、オゲッスムニダ」(また来ます)と言って店をあとにしたが、もっとちゃんと韓国語を勉強したほうが良いかなぁ…と思ったりもする。

12:30過ぎ、地下鉄を乗り継ぎ、乗り回し、日本大衆文化開放の様子を見ようとアチコチ移動するが、やはり今日は祝日ということで、大きなお店はほとんどが休み。そこで、初詣代わりに宮殿巡りをすることにした。今回のテーマは「慶」の字。景福宮(キョンボックン 朝鮮王朝の正朝として、14世紀末に立てられた)には「欽慶閣」(フムギョンジョン)や「慶会殿」(キョンフェジョン)、「慈慶殿」(チギョンジョン)など、「慶」が付くものが多い。また、昌慶宮(チャンギョングン 15世紀に立てられた御隠居用の御殿であるが、戦禍にによって幾度となく消失)などは説明不要! おまけに、ここには「歓慶殿」(ファンギョンジョン)なる建物もある。 加えて、かつて慶運宮(キョンウングン)と鑑賞された歴史もある徳寿宮(トクスグン 15世紀に大君の私邸として建てられたが、後に王の宮殿となる)を見ずにはいられなかったので、まずはこの徳寿宮から宮殿巡りをスタートした。

宮殿巡りの一部
(写真にマウスをあてると、写真の説明が出ます)
徳寿宮にて
大漢門(徳寿宮)
ハングル文字の創始者、世宗大王
景福宮にて
慶会楼(景福宮)
慈慶殿(景福宮)
寿慶堂(景福宮)
私のこじつけ集(1)
慶運
慶亘に運がつく
欽慶
慶亘をうやまう
慶会
慶亘に(が)会う
昌慶宮にて
明政殿(昌慶宮)
歓慶殿(昌慶宮)
宮殿で見つけた韓国の正月伝統行事
韓服を着た女の子
韓国のすごろく(ユンノリ)
ユンノリに興じるおじさん&おばさん
韓国のシーソー(ノルティギ)
投壷(トゥホ)ノリ
私のこじつけ集(2)
慈慶
慶亘を慈しむ
歓慶
慶亘が歓ぶ

景福宮に入った時、やけに冷たい風が吹いてきた。今までが暖かかったわけではないものの、どうも氷や雪肌を通り抜けてきたような、そんな風が吹き付けていた。が、その謎は、すぐに説けた。慶会楼の前にある池の水が凍っていたのである! その氷の上で水鳥がすべっていた。のどかなんだか、マヌケなんだか…。とにかく、分厚い氷が池を覆っていた。そのくらい、ソウルは寒いのである。

昌慶宮への道すがら、鉄腕アトムの書かれた垂れ幕を発見! そのビルの屋上にはロボット(模型)が…。どうやら「ロボット・ワールド」というアミューズメント・スポットらしい。昌慶宮とロボット・ワールド…時代のギャップを思い知る。

昌慶宮へは地下鉄の惠化(ヘファ)駅から歩いていったのだが、歩くのに疲れてしまった私は、意を決して市内バス(路線バス)に乗ることにした。マウルバス(小型バス)は何度も利用したことがあるのだが、市内バスはこれが初めて。とりあえず、よくわかるところが終点のバスに乗っておけば間違いないだろう…ということで、ソウル駅行きのバスを待つことにした。ソウルのバスは、かなり本数が多い。バス停には時刻表すらない。以前、運転手さんの給料が歩合制で、とにかく一日に何回運行したのかが給料に反映されるとあって、運転手さんの運転目的は「乗客を無事に目的地に運ぶ」ことではなく、「如何に運転回数を増やすか」にあったらしい。そのため、スピードをビュンビュン出すは、バス停の前後50〜100メートルの所の空いている所に止まるは…で、決して利用客本意の運行ではなかった。その反省で、今ではバス停にキチンと止まってくる。が、乗る意思を示していないと平気で通過される(らしい)。私は無事にソウル駅行きのバスに乗り込むことが出来た。昨年4月に購入しておいた交通カード(JR東日本のSuicaみたいなもの。これ1枚でソウル市内の地下鉄と路線バスに乗れる)を今回は使用しているのだが、バスにも使えるので、これで焦ることなく乗車できた。運転手さんの後ろの席に座ると、そこは一種のアトラクション。ジャンクションから出てきたバスに進路を譲らず、「あわや!?」というところでブレーキ!…とか、急発進などなど、挙げればきりがないのだが、バス好きの私も乗って数分は「選択を誤ったかなぁ…」と思ったほど。でも、最後には「また、乗ろう!」と思うあたりがバス好きの宿命。ただ、バス停案内のテープはオール韓国語なので、ある程度路線がわかっているか、あるいは韓国語を多少理解できないと、バス南大門を利用するのは難しいかも知れない(私だって、案内テープの韓国語ぐらい、わかるわいっ!)

バスは途中、明洞を通っていった。そこで降りれば、ホテルまでほんの数分だったのだが、まだ日があるうちにアチコチ回っておきたかったので、降りずにそのままソウル駅方面へ。途中、南大門を通った。渡韓の旅に訪ねる南大門…もう珍しくも何ともないのだが、なぜか魅力的だ。バスの中からみた南大門は角度が悪かったので、ソウル駅でバスを降りず、そのまま南大門の前まで乗車した。そして、道路に出て(何という危険なことを!?)、ベストショットをパチリ。そしてその時、ある事実に気が付いた。「そうだ! 南大門市場をつきって行けば、ホテルまで歩いて帰れるんだった」…というわけで、市場を抜けていくことにした。が、私はどうもすぐ「日本人」であると気が付かれるようである。今回、韓国に到着してから、毎日のように「お兄さん、カバンどう?」と言われるのである。南大門市場昨日など、いきなり私の目の前に現れた男が、「はいっ! ニセモノです! ニセモノの時計ですよぉ!」とデカイ声でのたまった。コンビニに入ってもそうである。何も話していないのに、「イラッシャイマセェ〜」と言われることが多い。

明洞に着いて、小腹が減っていたので、屋台のおでん屋さんでおでんを1串だけ食べた。1串1000ウォン。日本のおでんとは似ても似つかぬモノが刺さっている。ハンペンのような、油揚げのような、そんな味と食感の食べ物…。一見、鳥の皮のようにも見えるが、鳥ではない。魚系なのだろうが、何だろう? 不味くはなかったが、期待しないほうが無難な感じがする。

ホテルに戻り、このサイトの更新をしている最中にまた、お腹がすいてきた。前回の滞在中に気になってしょうがなかった店が明洞にあるので、今日は思い切って行くことにした。その店は、「新宿サボテン」である! 日本ではおなじみ、トンカツの専門店である。日本では何度か利用したことがある。店に入ったり、デパ地下で買ったり…と。なかなか味も良いし、黒と白のゴマをすりつぶしてソースを入れ、それをカツにつけるという食べ方がいい! さて、明洞店ではどうだろう? 入店していきなり、「オソ、オシプシオ」(いらっしゃいませ)と言われる。日本語が理解できないらしい。そして、2階に上がるように言われる。2階に行くと、そこにも日本語を解さない店員さんたち。いいぞ! こうでなくっちゃ! 勧められたテーブルには、すでに黒&白のゴマが小型すり鉢に入れられて置かれていた。おぉ、これは日本と同じではないか! ささやかな喜びを感じる。そして、ロースカツ定食とビールを頼む。しばらくしてカツが運ばれてきた。日本ではたしか、ゴマは客が自分ですりつぶすことになっていたように思うのだが、ここでは店員がやってくれる。それはそれで嬉しいサービスなのだが、そのまま店員がキャベツにドレッシングをドバドバ〜ッと勝手にかけてしまうのを見て、ちょっと切なくなった。

こうして、2004年最初の日は過ぎていった。